高次脳機能障害を学ぶ(1) 脳のはたらき編

1.脳の低次の活動と高次の活動

 私たちは、日々、様々なものを見たり、聞いたり、感じたりすることによって、外からの情報を取り入れ、それらを頭の中でまとめ上げたり、過去の経験を参照しながら、それらの情報について理解し、何らかの反応をするということを繰り返しています。そして、このような我々の日常生活における様々な活動は、脳の活動によって支えられています。
 例えば、リンゴを見たときのことを考えて見ましょう。リンゴを見たとき、あなたは瞬時にそれがリンゴとわかりますか。リンゴとわかるためには、まず、リンゴの形、色、匂いといった情報を瞬時にとらえ、それらの断片的な情報を脳の中でまとめ上げる必要があります。そして、それらの情報と、赤くて丸くて甘酸っぱい匂いのするものはリンゴであるといった知識と結びつけることが出来ることで、自分が見ているものが「リンゴ」であると理解できるのです。もちろん、「リンゴ」に関する知識には、リンゴという字面、リンゴという音も含まれます。

リンゴを見た場合

 このような脳の活動は、低次と高次と呼ばれる二つの活動に大別できます。どの活動が低次で、どの活動が高次なのかについて、はっきり区別することは難しいですが、ここでは、ある個々の感覚器官を介して入ってくる情報を受け取る活動を低次、そしてそれらの情報をまとめ、知識や記憶と照合し、意味付けを行なう活動を高次と呼ぶことにします。簡単な例で言えば、ある音が“聞こえる”というのは低次の活動、その音が“何の音かわかる”というのが高次の活動ということになるでしょうか。

2.脳の分担作業と共同作業

 では、脳は様々な活動をどのように行なっているのでしょうか。かつては、脳全体で全ての活動を行っている(共同作業)という考え方と、脳のある部分がある特定の活動を担っている(分担作業)という考え方が対立していましたが、今では、その両方の活動があることがわかっています。例えば、誰かと会話する状況を思い浮かべてください。会話という状況では、少なくとも、相手の話を聞いて内容を理解するということと、それに対する自分の考えや思いを言葉にして伝えるという2つの活動が必要ですが、この2つの活動には、脳の別々の場所が関わっています。相手の話しを理解するには左の脳のちょうど耳の上辺りの部分、言葉を話すには左の脳のより前の部分が重要な役割を果たします。しかし、相手と話すには、これらの2つの部分はもちろんのこと、相手の表情や雰囲気を察知したり、会話のスピードを調節したり、あるいは、会話をしながら、自分のほかの予定に頭をめぐらせるなどの、様々な活動が必要です。ですから、一つ一つの作業は分担作業であっても、それらの分担作業がうまく調和し、共同作業できることで、私たちはスムーズな日常生活を行なうことが出来るのです。

会話の分担作業と共同作業